2009年 08月 31日
著者 村山由佳 読んだのは、数週間前。 「その時書けよ」「書くことについて・その8は嘘かよ」といった突っ込みはなしの方向で。 あらすじ。というより、設定。 経緯はどうあれ、実の兄に恋人を奪われる形となった主人公・祐介。 長野の旅館兼農園「かむなび」を舞台に、東京を飛び出した祐介の新しい生活が始まる。 まさかの寝取られ属性付き。 どうよ、このステキ☆展開。 僕もどうなることかと思いきや……。 以下、ネタバレあり。 祐介の逃げ出した現実(兄や元恋人との関係)は変わらずとも、祐介自身は成長し、再生していく。 見方が変われば、世界は確かに変わっていくということを、主人公と共に実感できる内容だった。 読後感はスカッとしたという表現が適切。 「初期の設定はもういいでしょ」という感覚にまで持っていかれた。 このような感想を持てたことは、人物が魅力的だったこと、そして終盤に起こったある展開が決定的に爽快だったことに因るだろう。 前者について。 人物描写は豊かで、それでいて的を外していない。 「キャラが作者の手を離れ、勝手に動き出す」という表現があるが、そのものズバリである。 やり取りの様子は読んでいて、実に心地よかった。 後者について。 ある展開とは、ぶっちゃけ性描写である。 中盤から何となく予感めいたものがあったが、最後にきて本当に事が起こった。 ところが内容は全然いやらしくない。それは妙に清々しく、そして微笑ましいものだった。 読んでいて楽しい性描写というのは、そうあるものではない。 表現が変に象徴的だったり、反対に具体的すぎたりして、読者が置いていかれることが多いように思う。 まぁ行為が行為なだけに。 ところが本作は違った。しっかりと付いていくことができた。 その必然性も、その意義も、充分に感じられた。 結果、行為を含めたすべての展開が収まるべきところに収まったと思う。しっくりときた。 以下、余談。 僕が性描写の妙を一番に感じるのは、村上春樹の『ノルウェイの森』である。 何度か読んでいるが、読むたびに、数ある性行為の意味を考え、その流れに納得し、いいなぁと思ってしまう。 いや、変な意味ではなくて。
by kurohono
| 2009-08-31 00:34
| 本
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